カセキメラ問題を語る

<私とカセキメラー戦闘特化型化石ポケモンー>

 私はポケモンソード・シールドを始める前から彼らの存在を知っていた。彼らのうち、ウオノラゴンとパッチラゴンは超強力な技によって対戦でもっとも有名なポケモンの一つにカテゴライズされていた。そのため、ポケモンの対戦関連のウェブページや動画の中でしばしば彼らの姿や彼らについての情報を仕入れることができた。私はゲームを始める前に対戦についての動画をいくつか見た。その中にウオノラゴンの姿があった。後述するように、このポケモンは非常に奇抜な外見をしていた。そのため、彼の姿はとても印象に残った。

 ゲームを始める前からカセキメラの印象はとても強かった。しかし、私はゲームの中でも彼らに驚かされることになる。化石ポケモンポケモンに応じた化石を復元させることによって入手することができる。しかし、彼らの場合、該当する2種類の化石を適当な組合せで復元させることによって入手することができる。後述するように、これはポケモンシリーズを通じて初めてのことである。その斬新な入手方法からますます彼らの印象が強いものになっていった。

 入手してからも私は彼らに驚かされた。彼らは前評判通り、戦闘面では非常に頼りになった。例えばウオノラゴン(カセキメラの一種)はエラがみという技を覚える。この技は相手より早く行動できたときに威力が倍の170になる。そのため先制することさえできれば多くのポケモンに致命傷を与えることができる。私も実際にこのポケモンを使ってその強力な性能に驚かされた。彼らは戦闘面でも強く印象に残った。

<カセキメラとは何者か?>

 ここまでカセキメラに対する私の所感を述べてきた。ここで今一度彼らが何者かについて確認しておこう。

 カセキメラとはポケットモンスターソード・シールドで初登場した、パッチラゴン、ウオノラゴン、パッチルドン、ウオチルドンの総称である。彼らはいわゆる化石ポケモンというグループに属する。化石ポケモンとはゲーム内で手に入る特定の化石を研究員などの人物を通じて復元させることで入手できるポケモンの総称である。彼らもまた化石を復元させることで入手できるため、これらの中に含まれている。

 しかし、彼らは既存の化石ポケモンとは大きく異なる特徴をもつ。まず、岩タイプでないことである。化石ポケモンは「石」に由来するポケモンである以上、初代のオムスターカブトプスから岩タイプであるという慣例があった。しかし、カセキメラはどのポケモンも岩タイプを持たない。例えばウオノラゴンはパルキアと同じ水、ドラゴンタイプであり、パッチルドンは唯一のでんき、こおりタイプである。このように彼らはタイプで既存の化石ポケモンと一線を画している。しかし、それ以上に重要なのが化石の組み合わせによって入手することができるということである。所感の項でも述べたように、今までの化石ポケモンは化石と復元されるポケモンが一対一の関係にあった。例えば、たての化石からはタテトプスが、ずがいの化石からはズガイドスがそれぞれ復元される。しかし、カセキメラは組み合わせによって入手できるポケモンが決まる。例えば、ウオノラゴンはカセキのリュウとカセキのサカナの組み合わせで入手することができる。これこそが彼らが「キメラ」である所以である。このように、カセキメラは既存の化石ポケモンとは大きく異なる特徴を有しているのである。

<カセキメラのデザインーなぜ議論の的になったのか?->

 カセキメラは既存のポケモンとは大きく異なる特徴を持っている。それは彼らのデザインにもみられる。彼らのデザインはよくも悪くも話題になった。中には批判の声も上がっていた。なぜここまで話題になったのだろうか。この項では彼らのデザインについてみていくとともに議論の的となったものは何かという問いについても考えていく。

 先に述べたように、カセキメラはドッキングによって生まれたポケモンである。これは彼らの外見を見れば明らかである。例えば、パッチラゴンは弱弱しい上半身に似つかわしくないたくましい下半身を持っている。このようなドッキングのデザイン自体は、実は彼らが初めてではない。例えばヤドンの進化系であるヤドラン、ヤドキングは(多少の調整がかかっているが)シェルダーがしっぽ、または頭にかみついたデザインをしている。このようにポケモンポケモンのデザインはかなり初期のころから存在していた。しかし、カセキメラの場合は無理やりくっつけているという印象がぬぐえない。ヤドランやヤドキングの場合はシェルダーの部分に多少手が加わっている。そのため、ドッキングしたデザインであれど違和感を抱かずに受け入れられる。一方でカセキメラの場合、なんの手直しも加わっていない。そのためインターネットの世界にあふれている「コラ画像」のような印象を抱かざるを得ない。カセキメラのデザインに多くの人が注目したのは、まさにこの「無理やり感」を抱いたからである。

 彼らのデザインが議論になったのは「無理やり感」だけではない。生物としてはあり得ないような特徴も多くの人の注目を引き寄せた。例えば、ウオチルドンの口は頭のてっぺんに位置している。これは今までのポケモンだけでなく、実際に存在する魚類にもみられない奇抜なデザインである。魚の口はどこにあるのかと聞かれたら、私たちは顔の下側にあると答えるだろう。そのため、頭に口があるというウオチルドンの奇抜なデザインは私たちに違和感を抱かせる。この生物らしからぬ特徴も、議論になった理由の一つである。

 彼らのデザインが議論になったのは見た目だけが原因なのではない。彼らの設定も受け入れられがたいものだからでもある。例えば、パッチラゴンはその強靭な下半身で多くの獲物を食べて生活していたと図鑑内で説明されている。この説明はあたかも復元された姿で生活していたという印象を抱かせる。私たちはこの点に関して違和感を抱きやすい。なぜなら、彼ら自体は人為的にドッキングしたことによって現代によみがえったのである。にもかかわらず図鑑設定では人的に結合したという事実が無視されているように思われる。(ドッキングされる前のもとの姿について説明していたともとらえられるが、それならば別の本体についての記述―パッチラゴンの上半身のみに焦点を当てた記述―もなされなくてはならない)このようなゲーム内での入手方法と設定の矛盾も、彼らのデザインについて違和感を抱かざるを得ない要因の一つであると考えられる。

<彼らのデザインをどうとらえるか?ー論じ方の注意点ー>

 このように今までのポケモンとは良くも悪くも一線を画すデザインをもつカセキメラは多くの人々の注目の的となった。では、このポケモンをどのようにとらえるとよいのだろうか?この項では彼らのデザインに対する私の所感について述べていこうと思おう。先に断っておくがここで述べるのはあくまで私の意見である。この意見に従って彼らをとらえなければならないということは断じてない。読者諸君はぜひ、自分流のとらえ方というものを考えてみてほしい。

 私は彼らのデザインをこれまでの常識を覆そうとしたデザイナーの挑戦の結果と受け止めている。そのうえで、多くの人の注目を集めたという点で優れたデザインであると評価する。化石ポケモンはこれまでストーリー中で一部のトレーナーが使うというだけの言ってしまえば地味な存在であった。(映画などでしばしば出てきたプテラは例外ではあるが)これを読んでいる人の中でユレイドルやアバコーラを知っている人はどれくらいいるのだろうか。彼らは作中ではほとんど出てこないため、知らないという人がいるのは自然である。しかし、カセキメラはその奇抜なデザインと実際の戦闘能力によって多くの人の注目を浴びた。これは化石ポケモンの革命といっても過言ではない。それまでは「モブ」であったポケモンクッパのような大ボスに変貌したようなものである。このようにカセキメラはそれまでの化石ポケモンの立ち位置を大きく変え、「多くの人に認知されるポケモン」という上の立場についた好例であると私は考える。

 カセキメラのデザインについては「生命への冒涜である」という批判があがった。彼らの外見から判断するに食べ物をとることすらできないため、生きていくことすら難しく、現代に生きることすら彼らにとっては苦痛なのではないかと考えられるからである。しかし、この意見はあくまで仮想の世界の話であるという点で的外れである。そもそもの話、彼らがどのようにして物を食べ、消化しているといった話はあくまで二次創作の域を出ない。言ってしまえば所詮創作である。この創作に基づいて公式のデザインを批判することは、ありもしない仮説にもとづいて批判をしていることに等しい。まるでマフィアに襲われるかもしれないから防犯意識を持たなければいけないという論を一般人が言っているようなものである。このようにカセキメラに対する批判の多くは創作に基づいた話にならないものであることが多い。そのため、彼らを「生命の冒涜」という批判は個人の感想の範囲内でおさめるならよいが、公式への批判に発展させるのは筋違いなのではないかと考える。

 彼らのデザインに対する批判はどこまでが公式なのか?という視点をかけているために起こる。これは情報リテラシーが欠如している人の好例でもある。自分の主張を述べるためには正当な理由が必要である。ここでいう「正当」は誰もが疑問を抱かないようなものにしなくてはならない。たとえば、科学の世界では論文の中で用いられる根拠としては、再現性が認められる実験結果が用いられる。この実験結果は手順にのっとればだれもが同じような結果を出すことができるという点で「正当」である。一方で、二次創作というあくまで作者の主張のみに基づいた意見は正当であるといえるだろうか?これらの根拠は元をたどるとある人の推測にたどり着く。推測はあくまでもある人がデザインを見て思った考えであるため、必ずしもすべての人に納得されるようなものとはなりえない。そのため、これは「正当」な根拠にはなりえない。したがって、創作に基づいた批判は論としては成り立たない。情報を用いる際には使用用途とその情報の性質がマッチしているかを確認しておく必要がある。カセキメラ問題はまさにこの情報の扱い方を確認する好例にもなった。

<まとめ>

 カセキメラは今までのポケモンにないような見た目から良くも悪くも注目された。これは化石ポケモンが多くの人に認知されるようになった、いいきっかけになったと私は考えた。あなたはどう考えたのだろうか?

また、カセキメラ問題は論じ方についての復習の機会を与えてくれた。意見を抱き、説明するのは重要である。けれども、「生命の冒涜」の民のような主張だけは避ける努力をしていきたいと思う。私も論じるものとしてこの努力を怠らないようにしていきたい所存である。もし「この根拠は正当でない:といった意見があれば是非コメントしてほしい。